色と感情、世界共通の驚くべき関連性とは?
私たちの日常には、色と感情が密接に結びついた表現があふれています。
たとえば、気分が沈んだときに「ブルーな気分」と言ったり、試合会場での熱烈な応援を「黄色い声援」と表現したりします。
これらの表現は日本特有のものですが、実は色と感情の関連性は世界中で共通しているかもしれません。
たとえば、アメリカやイギリスなどの英語圏では、「see red」「feel blue」「turn green with envy」などの表現がよく使われます。
「see red」は怒りを爆発させる瞬間を、「feel blue」は憂鬱な気分を、「turn green with envy」は強い嫉妬心を表しています。
2020年に「Psychological Science」に掲載された国際研究により、色が異なる国や文化でどのように感情と結びついているかが明らかになりました。
では、世界共通の関連性とは、一体どのようなものでしょうか?
色と感情の普遍的な関連性の発見
ヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(JGU)の研究により、色と感情の関連性が普遍的な現象である可能性が示されました。
この研究によれば、世界中の人々が同じ色を同じ感情と結びつけることが多いという傾向が見られています。
例えば、赤は多くの国で「怒り」や「情熱」を象徴し、青は「落ち着き」や「悲しみ」と関連付けられることが一般的です。これは、日本で「ブルーな気分」と表現するのが、英語圏でも「feel blue」として憂鬱を表すことと似ています。
初の大規模な色と感情に関する国際調査
ヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(JGU)のダニエル・オーバーフェルト-ツイストル博士(Dr. Daniel Oberfeld-Twistel)による、4,598人の参加者を対象にした30カ国、6大陸にわたる詳細な調査が行われました。
その結果、異なる文化や言語圏でも、色と感情の結びつきには共通点が多く見られることが明らかになりました。
この規模の研究は前例がなく、非常に包括的な結果を得ることができたと報告されています。
図1. 研究に含まれた30か国を示す世界地図
色は、各国の色と感情の関連パターンが世界平均とどれだけ類似しているかを示しています。より赤い色で示された国は、色と感情の関連パターンが世界平均により近いことを表しています。

赤色の世界的共通認識と感情
この調査では、参加者はオンラインのアンケートで12色に対して最大20の感情を割り当て、色と感情の関連性の強さも評価しました。
国ごとの平均データを世界全体と比較したところ、赤色が「愛」というポジティブな感情と「怒り」というネガティブな感情の両方に強く関連していることが、世界中で共通していると確認されました。
「ジュネーブ感情ホイール」赤色を例に説明
下図のホイールは、20の感情概念と12の色の名称の関連性を評価するために使用されました。
参加者は、それぞれの感情に対応する5つの円から1つを選び、色と感情の関連を示しました。
また、関連する感情の強さを、弱い(最も小さな円)から強い(最も大きな円)までの範囲で選択しました。参加者は、必要に応じて複数の感情を選択することが出来ました。
左のパネルにはホイールの初期表示が、右のパネルには赤色を強い愛情と強い怒りに関連付けた参加者の回答例が示されています。

茶色の感情的な影響と国別の文化的違い
一方で、茶色は世界的に最も感情を引き起こしにくい色であることも分かりました。あえて挙げるならば、特に「嫌悪」との結びつきが認められました。
ただし、国ごとの文化的な違いも指摘されています。
たとえば、中国では白が「悲しみ」と強く結びついており、これは葬儀で白い服が用いられる文化的背景によるものです。
同様に、ギリシャでは紫が「悲しみ」と関連しており、これはギリシャ正教会で喪の期間に紫が使われるためだと考えられます。
気候と色の感情的関連性への影響
気候も感情と色の関連に影響している可能性があります。日照が少ない国では、黄色が「喜び」と強く関連付けられ、日照が多い国ではその関連性が弱いという結果が別の研究で示されています。
【ヒートマップによる説明】
下図は、30か国における色と感情の関連性の無加重平均確率を示したヒートマップです。
オレンジや赤の色が濃くなるほど、特定の色と感情の関連性が高いことを意味しています。
このマップのセルは、特定の色に対して参加者が1つまたは複数の感情を関連付けることができました。

色と感情の関連性におけるさらなる研究の必要性
オーバーフェルト=トヴィステル博士は、色と感情の関連性における世界的な類似性と差異の原因を明確に特定することは現時点では難しいと述べています。
言語、文化、宗教、気候、歴史、感覚系など多くの要因が関与している可能性があるためです。
しかし、機械学習を用いた詳細な分析により、地理的に離れている国々や言語が異なる国々では、感情と色の関連における違いが大きいことが確認されています。
たとえば、アジア圏とヨーロッパ圏は地理的にも離れ、言語も異なるため、両地域における色と感情の関連パターンの共通性は低いと言えます。
まとめ
このように、色と感情の関連性は世界中で共通して見られる一方で、文化や地域によって微妙な違いも存在します。
研究で示されたように、「色と感情の関連性における普遍的なパターンは、言語的および地理的な近接性によってさらに形成される」のです。
ちなみに、今回の研究対象に日本は含まれていませんでしたが、色が持つ感情的な力を理解することで、デザインやメンタルケアなど、さまざまな分野でより効果的なアプローチが可能になります。
色が私たちの感情や心の状態にどのように影響を与えているのかを探る研究は、今後さらに発展していくでしょう。
参考論文
”Universal Patterns in Color-Emotion Associations Are Further Shaped by Linguistic and Geographic Proximity” Psychological Science 2020, Vol. 31(10) 1245 –1260